60年前の北欧料理の本から「ベールをかぶった農家の娘」

60年くらい前に日本で出版された北欧料理の本を持っています。

神戸に引っ越してきたとき、友人が選別にプレゼントしてくれたもの。古い本なので、もちろん載っている料理もクラシックですが、料理名の日本語表記もなかなかクラシックです。

ミートボールは「肉団子」、レバーは「肝臓」、オーブン料理は「天火焼き」。

今ではおなじみの北欧料理も、デンマークのミルク粥は「米とアーモンドのデザート」、グラブラックスは「さけのディル風味漬け」、シマは「レーズン入りレモンスカッシュ」。

料理名をそのままカタカナにするのではなく、なんとか日本語で説明しようとした、当時の翻訳者の苦心のあとが感じられます。

そんな本をぱらぱらとめくっていて、ふと目に留まったのが「チョコレート入りりんごのケーキ」という料理。その下には、「原名は『ベールをかぶった田舎少女』である」とあります。

ああ、これはデンマークのBondepige med slør(ボンデピゲ・メ・スロール)のことだな、とすぐに分かりました。「ベールをかぶった農家の娘」という意味の名前を持つ、デンマークの昔ながらのりんごのデザートです。

実は以前、日本にあったノルウェーカフェでこれを食べたことがあります。そのとき食べたものが、私が知っていたデンマークの「エーブルケーエ(Æblekage)」とほとんど同じだったので、私はてっきりボンデピゲ・メ・スロールはエーブルケーエの別名なのだと思っていました。

ところが、この古い本では、なぜか「チョコレート入り」。ここが気になりました。

調べてみると、両者はやはりよく似ているものの、少し違います。デンマークの一般的なエーブルケーエは、りんごのコンポートに、白いパンやクッキーなどを使ったクラムを重ね、生クリームをのせるもの。一方、ボンデピゲ・メ・スロールは、ライ麦パン(rugbrød)を使うのが特徴です。

なるほど。似ているけれど、同じものではなかったのか。

そして、もうひとつ気になったチョコレート。

いくつかレシピを調べてみると、チョコレートを入れないものもたくさんあります。ところが反対に、チョコレートの入っていないレシピに「チョコレートが入るべき!」というコメントがついているものまでありました。

こういうところが、伝統的な家庭料理の面白いところですね。家庭によって少しずつ作り方が違い、お母さんが作ってくれたもの、おばあちゃんが作ってくれたものが、その人にとっての「本物」だったりする。

60年前の日本の本に載っている「チョコレート入り」というレシピも、そんな家庭版のひとつなのかもしれません。

さて、作ってみようと思ったものの、ここで問題が。デンマークのライ麦パン、rugbrød(ロブロ)は、日本ではなかなか手に入りません。

そこで、ふと思い出しました。近所の輸入食品店で、ドイツのライ麦パン Vollkornbrot(フォルコンブロート)を扱っていたはず。ドイツのパンではあるけれど、ライ麦を使った、ずっしりと目の詰まったパンで、デンマークのロブロにそっくり。これなら代用できそう。

というわけで今回は、Moderson’s(モダーソンズ)のフォルコンブロートを使って作ってみることにしました。

そして、せっかく作るならチョコレート入り。

パン粉をライ麦パンに変えただけでは、以前作ったエーブルケーエとあまり変わらないような気がしたので、今回はあえて、60年前の本に載っていた「チョコレート入り」を取り入れてみます。

りんごも、ちょうど今の季節に手に入りやすいものを選びました。ニュージーランド産の小ぶりなりんごです。日本のりんごは生食が基本なので甘いのですが、夏に出回るニュージーランドのりんごは酸味がしっかりしているので、お菓子作りにぴったり。りんごのお菓子というと、秋から冬のイメージがありますが、実はニュージーランドからのりんごが市場に出回る夏の方がお菓子作りには嬉しい季節なのです。

酸味のあるりんごのほうが、砂糖でカリカリにした香ばしいライ麦パンと、ほろ苦いチョコレート、そしてふんわりした生クリームによく合います。

さて、ドイツのライ麦パンとニュージーランドのりんごで作るデンマークの「ベールをかぶった農家の娘」。レシピはこちらです。

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ベールをかぶった農家の娘

Bondepige med slør
分量 2 ~4人分

材料

  • 酸味のあるりんご 正味400g
  • 砂糖 30g
  • 水 50ml~100ml
  • レモン汁 小さじ1
  • フォルコンブロード 130~140g
  • バター(またはマーガリン) 25g
  • 砂糖 30g
  • ダークチョコレート 30g
  • 生クリーム 100~150ml

作り方

  • りんごは皮をむいて芯を取り、小さく切る。鍋にりんご、砂糖、水を入れて弱火にかける。かき混ぜながら、りんごが柔らかくなるまで煮る。水分が減りすぎるようなら、様子を見ながら水を追加する。
  • りんごが柔らかくなったら、木べら、または必要ならマッシャーで好みの状態までつぶす。少し果肉が残る程度でもよい。最後にレモン汁を加え、冷ましておく。
  • フォルコンブロートをフードプロセッサーまたは手で細かくする。細かいパン粉に、少し大きめの粒が混ざるくらいがよい。
  • フライパンにバターを溶かし、ライ麦パン粉と砂糖を加える。弱めの中火で、焦げないように絶えず混ぜながら炒める。全体がカリッと香ばしくなったら火を止め、冷ましておく。
  • ダークチョコレートを包丁で細かく刻む。
  • 生クリームを7分立て程度に泡立てる。ボウルを氷水に当てながら泡立てると、きれいに仕上がる。
  • グラスまたは器に、ライ麦パン、チョコレート、りんごの順に重ねる。これをもう一度繰り返し、最後にライ麦パンとチョコレートを重ねる。
  • 最後にホイップクリームをのせる。好みでチョコレートを少量削って飾る。酸味のあるジャムを少量のせてもおいしい。

動画

ヒント

この分量は、デンマークのレシピなら2人分ですが、今回は4人分を想定しています。
一人分ずつグラスに盛り付けてもよいですが、全量を使って大きなボウルで作り、取り分けながら食べても。
りんごを煮るときは、酸に強いホウロウやフッ素樹脂加工の鍋を使いましょう。りんごの品種によって煮え方や水分量がかなり違うため、水は50~100mlを目安に、様子を見ながら加えてください。
鍋で煮る代わりに、電子レンジでりんごを加熱して柔らかくしてもよいでしょう。
生クリームの量はお好みで調整してください。

さて、今回、りんごを煮るところで少々苦心しました。

使ったニュージーランドのりんごが、思った以上になかなか煮溶けないのです。弱火でじっくり煮ているうちに水分がなくなってくるので、途中で何度も水を足しました。「これはもしかして、電子レンジで作ったほうが早くて確実だったかも」と、あとになって気がつきました。

結局、加えた水は100mlくらい。なので、水の量には幅を持たせています。りんごの品種によって火の入り方はかなり違うので、煮る場合は様子を見ながら水を加えてくださいね。

酸味のあるジャムを合わせる食べ方も一般的

さて、肝心のお味はというと……

おいしい!

りんごの酸味と、ライ麦パンの酸味と香ばしさ。そこに甘みとチョコレートのほろ苦さが加わって、思っていた以上に味に深みがあります。そして、食感がとてもいい。柔らかいりんごと、カリッとしたライ麦パンとチョコレートが重なって、食感の違いが楽しめます。

しかも、オーブンを使わずに作れるのもうれしいところです。オーブンを持っていない人にも作りやすいし、何よりキッチンが暑くならないので、夏に作るお菓子としてもぴったり。

9月になったとはいえ、まだまだ残暑は厳しい、というより……厳しすぎるくらい!軽くてさっぱりした食べ心地は、暑い日に食べるのにピッタリ。

60年近く前の料理本で見つけた、ちょっと気になる「チョコレート入りりんごのケーキ」。ドイツのライ麦パンを使って、現代の日本の夏に作ってみたら、思いのほか今の季節にぴったりのお菓子になりました。

古い料理本を眺めていると、こういう思いがけない出会いがあるのが面白いのですね。

今回使ったフォルコンブロートは、輸入食品店の「ジュピター」で購入しました。私の家の隣駅にあるオーガニック系のお店でも取り扱っていましたし、カルディでも見かけたことがあります。カルディは全国に店舗があるので、お近くにあれば探してみてください。

モダーソンズではありませんが、メステマッハーのものなら通販でも買えます。カルディにあったのはこっちだったかな?フォルコンブロートにはいくつか種類がありますが、リンク先のような、糖蜜やシードの入っていないプレーンのフォルコンブロートを選んでください。

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